長かった闘病生活の始まりから、2年が経とうとしていました。

『今日は天気が良いから、セリ採りにでも行かないか。』

『うん。行きたいね。』

そうと決まれば早速準備をして、目的の場所へ車を走らせました。

いつもの道、いつもの景色だったのですが、何故か私はいつもと違う景色に見えました。

途中、見晴らしの良いところが1ヶ所ありました。

前方には雪をかぶった浅間山、左にはみかぼ山、右側には赤城山と、雄大な山並みが見えていました。

『うゎ!今日は本当に良く見えるね。』

『こんなに良く見えるのは珍しいな。』

そんなことを言いながら私は心の中で、「私はガンに勝つことが出来た」といつも勇気をくれていた浅間山とみかぼ山に伝えていました。

それは、ほんの一瞬の光景でしたが、私達の目には今もずっと焼き付いています。


そして目的地へ到着。

ここへはもう2度と生きて来る事は無いだろうと思っていましたが、今こうして元気になり、妻とともに来られたことが、私はたまらなく嬉しく思っていました。

妻も同じ気持ちだったと思います。

そして早速セリを探し始めました。

まだ小さいが、セリは生えていました。

私はセリ採りをしながら、そしてセリ採りをしている妻を見ながら私と家族に起こった、長くて辛い闘病生活のことを考えていました。

そんな長く苦しかった、私達夫婦の末期ガン生活も、終わってみれば何も無かったように静かで穏やかでした。

私達夫婦にとって、これからが再出発だと自分自身に言い聞かせました。

『そろそろ帰ろうか。』

『お父さん、こんなに採れたよ!』

セリを入れた袋を掲げ、私と妻は車へと歩き始めました。


私は、人間の体は本当に不思議なものだと思います。

生き残る唯一の方法として肝臓移植まですすめられましたが、抗がん剤も受けずに末期ガンを克服出来たのだから・・・。

私達は、今まで何か悪い夢でも見ていたかのような錯覚さえ感じていました。

これから先、私達家族は春夏秋冬それぞれの季節の中で、山菜採りやキノコ採りをはじめ、いろいろなところに出かけることでしょう。

病気になって思うことは、「ごく普通の生活が何よりも幸せなのだ」ということです。

これからも、この思いを忘れずに日々を送っていこうと思います。

肝臓ガン末期闘病記

【完】




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