病院での入院生活は就寝時間が早いため、いつも朝早く目が覚めてしまいます。

私はいつも1階の喫煙所でコーヒーを飲みながら一服し、まだ薄暗い外を眺めながらいろいろな事を考える日々を送っていました。

そんなある日、いつものように一服して病室へ戻るため点滴台を押しながら廊下を歩いていると魚を焼く匂いがしてきました。

『今日の朝食は焼き魚かな。』などと思いながら病室に戻ると、しばらくして看護師さんが朝食を運んできました。やはりおかずは焼き魚、サンマの開きがありました。

アレ?美味くない・・・

いつもなら食欲をそそる焼き魚の匂い、しかしこの日は何か違っていました。

食べ始めてみても、『アレ?美味くない・・・。』

他のものを食べてみてもどれも美味しく感じられませんでした。

この味覚の変化は突然襲って来ました。

私はこの日を境に完食出来なくなり、残してしまうことが増えていきました。

いつも完食していた私が半分食べるのがやっとになってしまいました。

これは一体どうしたことなのか。

食べられるものを探す

私は早速妻に連絡し、理由を話して好物のおかずを作って持ってきてもらうようにお願いしました。

食事は喉を通らなくても、腹は減っている。しかも私は末期がん患者です。体力を維持するために、免疫力をつけるために食事はとても大切なのです。

何か食べたいもの、食べられるものを探すため、妻が来る前に1階の売店へ行ってみました。

その時私が手にしたもの、それは【ぶどうパン】【かりんとう】【チョコレート】

何故か普段は食べない甘い物ばかりでした。

私はとりあえずそれらを購入し、病室に戻って早速食べてみることにしました。

『アレ?これなら食べられるな。』

甘いものが美味しく感じられて、逆に普段食べていたものが喉を通らなくなる。

私の味覚は突然すっかり変わってしまいました。

夕食前に妻が頼んでおいた私の好物を持ってきてくれました。

早速食べてみました。

どうしたことか、やっぱり美味しくありません。

妻には実に失礼な話ではありますが、『やっぱり美味しくない。』と一口食べただけで残してしまいました。

『薬の副作用で味覚がおかしくなったのかな?でも、食べられるものだけでも食べないと、体力がつかないからね。何か食べたいものがあったら言ってね。作ってくるから。』

せっかく作って持ってきてくれた料理を持ち帰る事になったにもかかわらず、妻は気遣ってくれました。

そしてまた、いくら治療とはいえ、長い間薬を服用していると、体のどこかしらに変化が現れるのかなと思うようになりました。

病気(がん)のせいだと思います。

次の日の回診の時、私は主治医にこの事を話してみました。

『先生、きのうから急に何を食べても美味しく感じられなくなってしまったのと、急に気分が悪くなり、吐きそうなときもあるのですが、どうしてでしょうか。』

すると主治医は首を傾げながら言いました。

『病気(がん)のせいだと思います。』

原因は【がん】ということで、いつも話しは終わってしまう。

その後も、体にいろいろな異変が起きてもその都度、ただ、『がんだから。』という一言で片付けられてしまいました。

いろいろなことを考える日が多くありました:肝臓がん末期闘病記



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