ある日の事でした。
私はエレベーターに乗ろうと点滴台を押して廊下を歩いていました。
エレベーターの前まで来ると、椅子に座って外を眺めている中年の女性患者さんにふと目が留まりました。
その方は、私の住んでいるのと同じ方向を淋しそうに見ていました。
その方の気持ちが、私には何故か分かるような気がしました。
その方も、私と同じように胆汁を外に出していました。しかも『2本』。
長い私の入院生活の中でも、チューブを2本出している患者さんと会うのは初めてでした。
胆汁の色も私と違って黒に近い緑色でした。その色は、私が脱水症状になって、死ぬか生きるかの時に出ていた胆汁の色よりも黒っぽい。
私は声をかけることも出来ず、「よほど大変な病気なのか・・・。」と思いながらエレベーターに乗り込みました。
外に出ていつもの喫煙所でタバコを吸って外を眺めていると妻が手料理を持ってきてくれました。
いつもより濃い目の玉子焼きとほうれん草の卵とじでした。美味しく食べることが出来ました。
食べながら、妻にさっき会った患者さんの話しをしました。
『もしかしたら胆管がんかも知れないね。』
ガンにもいろいろな種類があるものだと思いました。