長い間入退院を繰り返していると、様々な患者さんとお会いする機会があり、その度にいろいろな考えさせられました。

普段ではなかなかお付き合い出来ないような方とも一緒になるので、いろいろな人間を観察することが出来ました。

同室の患者さんの死

ある日、私のいたいた病室にベッドのまま患者さんが運ばれてきました。

この方のベッドはいるもカーテンがひかれたままで、顔の記憶はほとんどありません。

ただ、カーテン越しに聞こえる先生の会話の中で、この方もガンだということは、私を含め同室の方々も知っていました。

その日、私はいつものように4時頃目を覚ましました。

そしていつものように朝の一服をした後、病室に戻ろうとした時、廊下の脇から「かくれんぼ」でもしているかのように看護師さんが顔をのぞかせていました。

私は不思議に思い、看護師さんに声をかけました。

よく見ると、看護師さんが押しているベッドには誰かが寝ているようで、その上に白いシーツがかぶされていました。誰かが亡くなったのだとすぐ理解出来ました。

看護師さんは遺体を運ぶ途中で私とはち合わせをしてしまったのでした。

これまでも、このような光景を何度も見てきた私はこれが病院の現実なのだと、自分なりに割り切ることが出来るようになっていました。

なので私はその後特に何も話さないで病室へ向かいました。

病室に戻ると、病室の方が皆うろたえていました。どうやらさっきのベッドの方は同室の方だったようでした。

病室の窓は全部開けてありましたが、何か異様な匂いがしていました。

私達は皆で別の場所に移動し、朝食の時間まで別のところで休んでいました。

朝食の時間になり、全員で病室に戻って食べ始めましたが、私は味覚の変化とまだ何となく残っている匂いで、全く食が進みませんでした。

そしてその後すぐ、何事も無かったようにベッドが用意され、次の患者さんが入って来ました。

大きな不安から男泣きする患者さん

私がいた病室は、「外科」「泌尿器科」「耳鼻咽喉科」などの混合病棟でした。

ある日、同じ病室に耳鼻咽喉科の患者さんが検査入院のため入ってきました。

この方の職業はタクシー運転手でした。

耳鳴りがひどく、それも踏切の遮断機ほどの音が片方の耳に響いているらしく、いろいろな検査を受けたにも関わらず、病名が特定出来ずにいました。

その日の夜、カーテン越しにその方のすすり泣く声が聞こえてきました。

耳鳴りが異常な程ひどいにも関わらず、病名が特定出来ないというのは、患者にとって計り知れないほどの大きな不安なのだと思います。

また、この方は今後の生活や仕事の事でも不安がっていたので、様々な気持ちが重くのしかかり、つい男泣きをしてしまったのだろうと思いました。

風邪を患者に移す迷惑な患者さん

ある日、また新しい患者さんが入院して来ました。

その方の病状は腰痛。1日2、3時間、点滴を受ける治療を行っていました。

しかし、腰痛以外は特に何もなく元気なため、2、3時間の点滴を終えた後は、一日中病室にいることはほとんど無く、病棟の先生や看護師さん達も、その患者さんには手を焼いていました。

ある日、その患者さんがどこからもらってきたのか風邪をひいてしまいました。

しかもその風邪が病室の全員に移ってしまいました。

私のような大病の患者に風邪は大敵です。

そんな患者さんと同室にする病院も病院ですが、私も含めて、この患者さんには散々な目に遭いました。

様々な患者さんとお会いしました:肝臓がん末期闘病記