娘の結婚式当日の朝、私はいつもより早く目が覚めました。

まだ諦めきれない私は試しに点滴台を支えに歩いてみました。しかし前日と変わらずフラフラ。

とはいえ、私は明るくなりつつある外を眺めながらいろいろ考えていました。

『今行けばまだ結婚式に間に合う。電車に乗って最寄り駅まで行けたとしても結婚式場まで歩けるか?タクシーがあるじゃないか!でも服装は?』

それでも行きたい。何としても行きたい。行ってやりたい!とずっと外を眺めながら思っていました。

結婚式の時間が近づくと、病室ではいたたまれず、喫煙所で胆汁の容器を恨めしそうに眺めながら、時間だけが過ぎていきました。

結婚式の話しを聞く

夕方、妻から電話がありました。結婚式が無事に終わったとのこと。

『娘の花嫁姿はとっても綺麗だったよ。娘とふたりで「ここにお父さんがいたらどんなに喜ぶだろうね。」と言ってふたりで泣いてしまったんだ。』

それを聞いて私は心残りではあったが、無事に終わった事をなにより嬉しく思いました。

病室からの眺め:肝臓がん末期闘病記
この写真は娘の結婚式が行われた方向を病室からみた景色です。

私はこの日、この景色を何度も、何時間も眺めていました。

そして私はこの日からタバコを吸うのを辞めました。

翌日、妻がお見舞いに来てくれました。

『バージンロードはどうした?』

『長男が娘の手を取って、ちゃんと上手く歩けたよ。』

『それなら良かった。安心したよ。』

『お父さんに財布を買ってくるから楽しみにしていてね、と娘が言っていたよ。』

娘夫婦はオーストラリアに新婚旅行に行っていました。

私の体調は日が経つにつれて少しずつ良くなって行きました。胆汁の出る量も落ち着いてきました。

体調が良くなると一日一日がとても長く感じられ、時間を持て余していました。

タバコを辞めてからそんな日が何日も続いていました。

新婚旅行から帰ってくる

そんなある日、末娘から電話が入りました。

『ただいま!帰って来たよ!約束のお土産を買ってきたから今から病院に行くね!』

私はコーヒーを飲みながら娘が来るのを待っていました。
入院していた病院の玄関前
しばらくして娘の車が見えてきました。その顔は嬉しそうに笑っていました。

一緒にベンチに座り、『おかえり!オーストラリアはどうだった?!』

その後、娘はいろいろな話しをしてくれました。

私は聞いているだけで楽しかった事が良く伝わって来ました。

タバコをまた吸い始めるようになる

話しの途中、娘が私に袋を差し出しました。

『ハイこれ!お父さんのお土産!』

財布にしてはやけに袋が大きかったので袋の中を覗き込んでみると、財布と一緒にタバコが入っていました。

娘は私がタバコを辞めた事を知りませんでした。

『ありがとう!でも今はタバコ吸ってないんだ。』

『そうなんだ・・・。』

『でもせっかく買って来てくれたんだからやっぱり吸おうかな。』

私は笑いながらタバコを1本取り出し、近くでタバコを吸っていた人に火を借りて吸い始めました。

『やっぱりタバコを吸うと落ち着くな。』

もうひとつの方の袋も開けました。

私が思っていた通りのイメージの財布でした。

『お父さんはこれが欲しかったんだ。ありがとう。』

娘は嬉しそうに笑っていました。

その財布は今でも大切に使っています。

私はこの時、とても幸せそうな顔をしている娘を見て心から安心しました。

と、同時に結婚式には出られませんでしたが、一日でも早く病気を直して元気にならなければと思いました。

そして、この日を境に少しの間辞めていたタバコもまた、吸うようになってしまいました。

闘病中タバコは吸っていました。:肝臓がん末期闘病記


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