2004年(平成16年)12月中旬、末期の肝臓がんによる余命宣告をされた日から9ヶ月が過ぎようとしていました。

私の体調は比較的安定していたので、いつ退院の許可が出るのかと期待していましたが、なかなか話しが出ることはありませんでした。

毎日毎日、点滴を受けるだけの日々が続いていました。

胆汁の出る量も、安定したかと思えばまら不安定になる、の繰り返しが続いていたので主治医もなかなか判断しづらかったのかも知れません。

それにしても私は一体何と闘っているのかと錯覚さえ覚えていました。

「出来ることなら正月までには家に帰って、ゆっくりとマラソン中継でも観たい」と思っていました。

そんな事を妻にも話してみましたが、これまた妻も首を縦には振りませんでした。

『病院にいれば、温度も一定に保たれているけど、家ではそうはいかないでしょ。気持ちは良く分かるけど、もし風邪をひいて肺炎でも起こしたら、大変なことになってしまうよ。』

全くもってその通りだと思ったので、私は妻の話しを聞いてから、私から主治医に退院の話しはしないことにしました。

そんな中、私の唯一の楽しみと言ったら、いつもの喫煙所でコーヒーを飲みながらタバコを吸う事でした。

しかし、この時期、そんなに長くは座っていられません。

体重40キロ前後の骨と皮のだけのような私が、パジャマの上にジャンパーを羽織るだけでは余計に寒さが身にしみました。

主治医の粋な計らいに感謝

年の瀬も近くなると、比較的元気な患者さんの多くは一時帰宅の許可が出ていました。

「最後まで病室に残るのは私だけか・・・。」としょぼくれていたところへ主治医が来ました。

『笹野さん、このまま胆汁が安定するようでしたら、正月は外泊しても良いですよ。』

『ありがとうございます!出来れば正月は家で迎えたいです。』

『外泊してもしなくても、笹野さんの自由です。でももし少しでも体調が悪いと感じたら、すぐに病院へ戻って下さいね。』

主治医の粋な計らいに私は感謝しました。

正月を自宅で迎える

そして大晦日、私がいた4人部屋は、私を含めて3人が家で正月を迎えることになっていました。

私以外の2人は朝食を済ませると早々に自宅へ帰って行きました。

しかし、私は決められた本数分の点滴が終わるまで帰る事が出来ません。

私は窓から見えるみぞれ混じりの雪に目をやりながら今年一年を振り返っていました。

去年の大晦日は、少し体調の異変を感じながらも、無事にやるべき仕事も終え、子ども達が孫を連れて遊びに来るのを今か今かと首を長くして待っていたものでした。

上手く言えませんが、ふとあの頃が懐かしく感じられました。

それがこの1年で大きく変わってしまいました。

肝臓がんの末期で妻には余命3ヶ月の宣告。

私の体はすっかり痩せ、体からはチューブが出ていて、点滴針で両手はアザだらけ。

たったの1年で変わり果てた姿になってしまった事に虚しい気持ちが込み上げていました。

しばらくするとやっと点滴が終わり、私は同室の患者さんに挨拶をして妻が迎えに来るのを待っていました。

妻の車が病院に到着すると、『雪の中での運転は危ないからオレが運転して行くよ。』と言って、私は心躍りながら我が家まで運転して行きました。

家ではおふくろ、そして当時飼っていた愛犬『ハナ子』も嬉しそうに迎えてくれました。

妻が心配していた通り、我が家と病院の環境はやはり大きく違っていて、家では暖房の無い部屋はとても寒く、部屋によって寒暖差が大きくありました。

私は風邪をひかないように人一倍気を使いました。

しばらくすると、子供達が孫を連れてやって来ました。

久々に皆で笑顔で盛り上がりました。

その時、長女が2人目の子どもを授かった事を知りました。

出産予定は半年後の6月10日前後との事でした。

『お父さん、産まれてくる子どものためにも、早く元気になってね。』

私は更に生きる勇気が湧いてきました。

ビールは不味く感じたが、楽しい時間を過ごす

年末年始、ちょっとだけビールを口にしてみました。

今まであんなに美味しく感じていたビールが、非常に不味く感じられました。

やはり、肝臓がアルコールを受け付けないのでしょうか。

私はこの年の年末年始は『お茶』で過ごしました。

これは余談ですが、末期の肝臓がんを克服した今、私の肝臓は元通り、”酒好き”の肝臓となり、毎日美味しくお酒を嗜んでいます。

それはそうと、久しぶりの我が家で、家族といろいろ話しをすることは、私にとって、とても大きなリフレッシュとなりました。

主治医の粋な計らいで、本当に楽しい正月を過ごす事が出来ました。

正月を自宅で過ごす:肝臓がん末期闘病記


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