退院してから一週間後、外来の診察日の事でした。
主治医が、『笹野さん、お元気そうですね。変わりはありませんか。』と聞いてきたので、私は『はい。』と答えると、主治医は早速チューブの傷跡を診ました。
『傷跡も大丈夫そうですね。今日からお風呂に入っても良いですよ。』
私は主治医からのその言葉に、「やっと風呂に入れる!夢にまで見た風呂に入れるんだ!」と心の中で興奮していました。
もう二度と風呂には入れないだろうと諦める事もありましたが、これでやっと元の自分に戻ったことを実感出来ると思いました。
その後、主治医に『今後はどうしますか。』と聞かれたので、『もし良ければ、3ヶ月に一度の血液検査をお願いします。』と答えました。
『では、3ヶ月に一度の血液検査ということで様子を見て行きましょう。』
診察を終えると、いつもお世話になっていた看護師さん達も、『笹野さん、本当に良かったですね。』と、私をねぎらってくれました。
家に帰るとすぐ、私は妻に、『今日から風呂に入れることになったよ。』と伝え、『これから風呂に入りたい。』と聞いてみました。
しかし妻に、『まだ時間も早いし、湯冷めでもして風邪をひいたら大変だから、もう少し待った方が良いわ。』と言われてしまいました。
私はそれもそうだと思い、その場は納得したのですが、内心はすぐにでも風呂に入りたい気持ちに変わりなく、ソワソワして落ち着きませんでした。
なにせ夢にまで見た1年8ヶ月ぶりの風呂、1分1秒でも早くアカを落としたい気持ちでいっぱいでした。
実際の風呂は落ち着きませんでした
そして夕方。
『お父さん、お風呂に入れるよ。』妻が私を呼びました。
いよいよ風呂に入れる時が来ました。
しかし不安も少しありました。
チューブを外したところからバイ菌などが入らないか、という不安です。
傷跡を見ると、まだ痛々しく思えました。
しかし、入りたい一心と、主治医が大丈夫と言ってくれた言葉を信じ、私は身体を洗ってから勇気を出して風呂の中へ入りました。
夢にまで見た風呂は、不安のためか、何となくぎこちなくて落ち着かず、残念ながらゆったり楽しむというところまでは行きませんでした。
そのうち、顔から汗が吹き出てきました。
1年8ヶ月ぶりに、身体の悪いものが汗になって出ていくようにも思えました。
その後、私は病気だった事を忘れたかのように身体を洗いました。チューブが取れたところは周りをそっと撫でるように洗いました。
背中は妻に洗ってもらいました。
『病気の時は骨と皮だらけの身体だったけど、今はその面影も無いね。元気だった頃より太ったんじゃないの?』
『あの時はガリガリに痩せた自分の姿を鏡で見て、本当にビックリしたよ。ガンという病気は身体の栄養を奪って成長し続けていくものだから、どんなに痩せ衰えても容赦なく成長を続けるんだね、本当に怖い病気だよ。でも、何とか助かって本当に良かったよ。』
『そうだよね、本当に良かったね。』
こうして不安ながらも1年8ヶ月ぶりの風呂を何とか堪能する事が出来ました。
妻はその後風呂掃除を・・・
風呂から出て着替えを済ませ、バスタオルで頭を拭いた時、本当に生き返ったような気がしました。
今までのガンの重圧と身体の汚れを洗い流して、すっかりキレイになり、久しぶりにホッとしたひと時でした。
しかし、私の清々しい気持ちとは裏腹に、妻はこの後、風呂の湯を全部抜き、しかも、風呂場の掃除までして再度湯を溜め直してから風呂に入っていました。
オレって一体・・・。
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